
男性の性について考える「賢者の時間トーク」vol.2 斉藤章佳×北原みのり(後編)「性暴力ではない手段で幸せになる道を」
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男性の性について考える「賢者の時間トーク」vol.2
神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん×ラブピースクラブ代表 北原みのり対談―後編―
世の中には、男性の性を巡るさまざまな神話や疑問があります。なかには、あまりにも偏っている事柄も。性教育が十分にされているとは言えない日本社会で、男性の性をまじめに考える必要があると考え、ジェンダーとセクシュアリティに向き合い続けている「ラブピースクラブ」代表・北原みのりが、男性の性に関わるさまざまな立場の専門家の方々と、男性の性について語り合っていくシリーズです。
今回は賢者として斉藤章佳さんをお招きしました。「ラブピースクラブ」代表・北原みのり精神保健福祉士と社会福祉士の斉藤章佳さんの対談後編です。
性加害者の具体的な治療方法には、コミュニケーション、つながり、感情の肯定などが必要なことが見えてきました。
6:性加害以外で幸せになる方法を知らない?
7:「男だろ!」のスイッチ
8:性加害行為に責任を取る
9:「Feel」が苦手な男性たちへ
6:性加害以外で幸せになる方法を知らない?
北原:セックスはするべきであり、性欲は強いほうがいいといういわゆる「男らしさ」と「性欲」の結びつきについて、斉藤さんはどのようにお考えですか?
斉藤:数年前、準強制性交罪などで逮捕されたリアルナンパアカデミーのニュースが話題になりましたが、その事件のひとりを担当していたこともあって、塾長といわれる人がつくったナンパマニュアルを読む機会に恵まれました。容姿端麗な女性と性行為をし、その回数を正の字で記録していくことが男らしさのステータスなんだというような、昭和からよしとされ続けてきたことが凝縮されたマニュアルでした。
彼の治療を進めていくなかで、
「クリニックに来る前は、コントロールできない性欲、女性を見ると反射的に脳が反応してしまう性衝動が原因だと思っていたけど、プログラムを受けてそうじゃないと気づきました。性欲の問題ではなくて、自分の生き方の問題だったんですね」
と話していたことが印象に残っています。
たまたま生き方のつまずきが性の問題として表面化しただけであって、そもそも自分がどのように生まれ育ち、親のどんな価値観の影響を受け、どのようなに人間関係を築いてきたのか。プログラムでは、再犯防止は当たり前として、どういうふうに生きてきたかということへの向き合いが重要になります。
彼の場合は、女性蔑視の背景には根強い男尊女卑の価値観がありました。ただ、生まれた時からその価値観や女性の捉え方をしていたわけではなく、日本社会のなかで学習したものです。性暴力に関する認知のゆがみが明確になったとしても、自分の生き方自体を変えていかないと本当の意味で幸せにはなれないということに気がついたことはとても大きかったです。
性犯罪再犯防止プログラムのセッションで、「その問題行動を手放して失ったものは何ですか?」という質問をした時に、ある人が「生きがいを失った」と言いました。そして、それを聞いた他の参加者が大きく頷いていました。でも、その生きがいは間違っています。
彼らは、性暴力ではない手段で幸せになる方法を学ぶ必要があります。同じ問題を持った仲間とともに、プログラムのなかで分かち合いを通して学んでいきます。その一方で社会的な構造や仕組みとして、男らしさと性欲を煽るメディアやそういう類のお店もいたるところにあります。さらには、当事者性を持っている男性側は性欲原因論をほとんど否定しないとなると、やっぱり男性が自分事として性暴力を考えるという思考の枠組みを持つことが最重要課題になります。
7:「男だろ!」のスイッチ
北原:男性の幸せとは、カネ、(若くて美人な女性との)セックス、地位・・・そのように語られてきました。その価値観の歪み、何から変えていけばいいのかわからないくらい、課題は大きいですね。
斉藤:最近、10代、20代の若い世代と関わるなかで、昭和から続くそういう価値観が変わってきてると感じることがあります。一方で、その子たちに影響を与える世代がいわゆる昭和時代の価値観を持っているんですよね。
私がハッとさせられたのは、以前箱根駅伝を見ていたら、監督が「男だろ!」と叫び、選手は何かのスイッチが入ったのか復路で逆転優勝をしました。私もずっと体育会系で育ってきたので、その「男だろ!」のスイッチは非常によく分かるんです。でも、同様の場面で「女だろ!」とは言いませんよね。
その背景には、あくまでも仮説ですが、もし負けたら男として承認されない、指導者から見捨てられてしまうのではといった、恐怖があったと考えられます。それは、指導者も無意識からも知れませんが、いざという時に機能するように、いわゆる条件反射の回路を作るために練習の時から繰り返し繰り返し刷り込んでいると思われます。現代においても、学校やクラブチームなどで、この刷り込みは世代間連鎖として続いていると感じるので、とても根深いです。
北原:フェミニストの女友だちだと話していると、息子をなるべく「日本の男らしく」育てないように工夫するのですが、一切与えていなくても、鉄道や戦闘モノを好きになる傾向が強かったりすることがあると言います。そういう話を聞くと、どこまでが教育なのか、社会の影響なのか、どこまでが生物学的なものなのか、わからなくなります。
たとえば性欲にしても、女性はそこまで振り回されているわけではないと思うんです。そのあたりはどう思いますか? 男性のテストステロンの影響です。
斉藤:テストステロンの視点では、濃度が一番高くなるのは10代半ばからです。性欲が主体の性暴力が頻発するならば、その時期がもっとも多くなるはずです。子どもの性非行の場合は、第二次性徴の時期に、本当に性的な欲求が制御できずに、もしくは知的レベルでの理解や知識が不足してるところで性加害をしてしまうケースはありますが、実際には、成人してからのほうが圧倒的に多く起きています。性加害の種類や性倒錯の傾向によって、始める時期や頻度は大きく変わってくるものの、痴漢の場合は30~40代、盗撮は20代が多い傾向です。
ただ、性的な欲求の高まりに生物学的な違いはあっても、性欲の強さに関しては一端化できる適当な尺度はありません。そう考える理由は、痴漢加害者にヒアリングしたところ、約6割はその行為時に勃起も射精も伴ってないことがわかりました。「では、なぜ彼らは痴漢をするのか?」と思いますよね。やはり、性暴力と性欲のつながりは、直接的というよりはらせん状というイメージがあります。そのらせん状の中心にある軸、つまり本質はパワーによる支配とコントロール。そもそも、勃起と射精だけが男性の性欲を図る尺度なんだろうかという疑問はありますが、もっと内面的な事柄も存在していますし、性欲そのものを測定することができないのではないかと。
北原:性欲は、心理学の分野なんですよね。生物学ではないことがすごく不思議だと思ったことがあります。私が聞いた話では、前立腺がんになった知人が「前立線を取るので性機能がなくなります」という説明を受け、「現に性機能はなくなったけど、性欲はなくならない」と言っていたんです。だから、よけいに「性欲ってなに?」と。
私は、更年期症状が出てきた時に「男性ホルモンを打ちますか?」と言われて試してみたことがあります。すると、びっくりするくらい性欲が強くなったというか、濃くなっている感じがあって。その経験した時、男性は常にこの5倍も10倍もあるんだったら、それは大変だろうと思いました。だから性加害をするということではなく、性的なことを考える時間はどうしても長くなってしまうのではないかと。
斉藤:人は、快楽や達成(正の強化)よりも、一時的に苦痛を緩和(負の強化)してくれるものにはまりやすいんです。簡単にできる、すぐに報酬が得られる、一時的ではあっても自己肯効力感が肯定的に変化する。性欲に関係なく、この3つの要素が揃うと誰でもその物質や行為にハマりやすくなります。これは、アルコールや薬物、ギャンブル、万引き行為も同じです。依存症の本質は、いわゆる快楽ではなくて苦痛であるというのが、私のなかでは一番しっくりきます。
依存症者が抱える苦痛(否定的感情)は、信頼できる仲間との温かいコミュニケーションなどの繋がりのなかで心の穴を埋めていきます。今まで酒だけで、薬物だけで埋めていたその穴を、いろんな依存先で埋めていく訓練をするのが、一般的な依存症の回復プロセスです。ただ、時間もコストもとてもかかります。そうすると、人はやっぱり手軽な簡単なものに飛びつきますよね。だから再発(スリップ)してしまうのですが、そこが依存症からの回復の難しいところです。
8:性加害行為に責任を取る
北原:性加害者が再犯しないためのプログラムは、どのようなものですか?
斉藤:治療には、1.再発防止 2.薬物療法 3.性加害行為に責任をとる、という3本の柱があります。どんなにすばらしい決意を言葉で表明しても、再犯したら意味ないので、まず再犯をしないためのスキルを学ぶために認知行動療法を行います。これができるようになって、次は認知のゆがみに向き合っていきます。行動変容が起こると思考に影響が出てくるので、認知のゆがみのセッションに入っていきやすくなります。行動変容、認知のゆがみのへのアプローチという土台ができないと、加害行為の責任に向き合うことができません。
薬物療法は、その薬を一生飲み続けるわけではありませんが、転ばぬ先の杖として使用します。
例えば、性欲を抑える薬をやめて、また性的欲求が戻ってきたとしても、きちんと認知行動療法による土台ができているので、加害の責任に向き合える段階に入ることができます。ただ、性犯罪の治療は「再犯しないだけ」では終われません。なぜなら、数多くの被害者がいて、今でも苦しんでるからです。取り返しのつかない加害行為をした当事者として、被害者にどう責任をとって生きていくかということに向き合わないと、「生き直す」ことにならないので、加害行為に責任を取るというこの柱に向き合う作業が、その後一生続きます。
性加害のメカニズムとしては、過度なストレスで生きづらさや、トラウマが刺激されて生活がままならなくなるなど、生活サイクルがうまく回らなくなり、犯行サイクルの車輪が動き出すことで起きます。治療は、プログラムのなかで自らの生活スタイルを見直し、性加害をせざる得ない状況に自分を追い込まないためのライフスタイルを見つける作業でもあるので、こういうメカニズムで性加害をしていたんだということしっかりと学んでもらわないといけない。これまでの生き方を丁寧に見直していくので、各段階でそれぞれ1年くらいはかかります。
北原:最低でも3年というのは長いと思うのですが、みなさん続けられますか?
斉藤:まず、予約の段階で30分程度ヒアリングします。裁判のために診察書だけがほしいという場合はすべてお断りして、治療の動機づけや裁判後も継続する意思があるか、ご家族がいる場合は協力が得られるのかなど、細かいチェックリストに沿って確認していきます。そして、治療プログラムの見学をして、誓約書にサインするプロセスがあるのですが、「向き合いたくない」「まだ自分でなんとかなる」「俺はこんなところに来るはずの人間じゃない」「俺を精神障害者扱いしやがって」など、さまざまな反発や抵抗が出てきてサインができない人が多いので、初診でだいたい半分がドロップアウトします。
プログラムの導入がうまくいったケースの場合、1年間の治療継続率は約7~8割。3年間の長期定着は、これまで3000名以上診てきて150名ほどになります。
9:「Feel」が苦手な男性たちへ
北原:当事者性からは「自分がしたこと」から逃れられない。だからこそトリガーとなる要因を自覚しながら、この問題に向き合っていくしかないのですね。
斉藤:はい。Feel(感じる)とThink(考える)もプログラムに取り組んでいくうえで大切にしています。男性の場合、Thinkはできているんですが、Feelがわからない人が多いです。例えば、「寂しくて泣きたい気持ちです」「心臓がドキドキしてます」「顔が熱くなってきました」「なんか肩を誰かにぐっと押さえてるような感じがします」など、感情や生理反応の言語化がすごく少ない。感情を言葉に変換する機能が育まれていません。その背景には、「男は泣くな」「我慢しろ」「歯を食いしばれ」というような、有害な男らしさを背景とした感情の言語化を禁止してきた教育があると考えています。
性加害者は、自分が何を感じているのか正確にわからないんです。なぜそうなのか、生い立ちからみていくと、男らしくあることや自分の感情を否定されてきたえエピソードがたくさん出てきます。子どもの時から自分の感情、特に否定的な感情を大切にしてもらった経験が少ないまま大人になると、人の痛みを感じることに鈍感で、モノ化志向につながりやすくなります。相手の感情がわかればモノ化する必要はなくなります。感じた痛みを言葉にして、それを受け止めてもらえた、自分の感情を大切にしてもらう経験をすることで、初めて他者の痛みが大事にできると思うんです。そのような経験を積み重ねていると、少しずつ相手のことがわかるようになります。
もちろん家庭以外でも学びはありますし、社会の在り方や生物学的なジェンダー構造も影響してきますが、個人単位で考えると、やっぱり感情の言語化のトレーニングは男性にとって重要だと思います。感情をきちんと言葉で表現し、それを対話のなかできちんと受け止めてもらえる経験の積み重ねが大事ですね。
【プロフィール】
斉藤章佳(さいとうあきよし)
西川口榎本クリニック副院長/精神保健福祉士・社会福祉士。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症治療機関「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・窃盗など、さまざまな依存症問題に横断的に携わる。専門は加害者臨床で、現在まで3000人以上の性犯罪者の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)など、共著に『性的同意は世界を救う:子どもの育ちに関わる人が考えた6つのこと』(時事通信社)、『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うなかれ』(ブックマン社)などがある。
北原みのり(きたはらみのり)
作家・ラブピースクラブ代表。1996年に日本では初めて女性だけで運営するプレジャートイをはじめとした世界中のフェムケアを揃えたセレクトショップ「ラブピースクラブ」を設立。たくさんの女性の声を届けていくためのシスターフッド出版社「アジュマブックス」なども展開する。著書に『アンアンのセックスできれになれた?』(朝日新聞出版)、『メロスのようには走らない。女の友情論』(ベストセラーズ)、『さよなら韓流』、『日本のフェミニズム』、共著に『奥様は愛国』(以上、河出書房新社)などがある。