
泌尿器科の医師が名言!男性の生殖にペニスサイズは関係ない
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世の中には、男性の性を巡るさまざまな神話や疑問があります。「男性器のサイズが大きいほうが男らしい」とされる“ペニス神話”も、そのひとつではないでしょうか。
今回、男性医学と男性不妊のエキスパートである泌尿器科医 辻村晃医師に、男性の生殖視点から男性の性について伺いました。生殖においては、ペニスより睾丸のほうが重要な役割を担っているといいます。
男性の生殖と性欲に相関性はない!?
「男性の生殖は性欲に紐づけられがちですが、そんなに単純な話ではありません」
と話すのは、泌尿器科医であり、男性不妊の第一人者として男性の生殖に向き合い続けている辻村晃医師。
「性欲は、男性ホルモンであるテストステロンが起因となっていることはわかっています。一般的に考えると、男性ホルモンの分泌量が多い男性のほうが性欲は強くなるというのは、確かにそうと言えます。
ただ、男性ホルモンだけで性的欲求が起こるならば、男性ホルモンが高まれば、比例して性行為の回数は増えることになります。加えて、生殖能力も高まることにもなりますが、生殖と性欲の相関性を示すエビデンスはありません。
生殖の視点から考えると、男性ホルモンの状態は要因のひとつではあるものの、性欲の有無や強弱よりも精子の数や質のほうが重要です。
また、男性はときにペニス(陰核)のサイズを競って、自分のほうが大きいと自慢することがありますよね。
実は、ペニスのサイズも生殖にはあまり関係がありません。
むしろ、睾丸と呼ばれる精巣のサイズのほうが重要。なぜならば、生殖に必要な精子は精巣で作られているからです」
では、なぜペニス神話が当たり前のようにあるのでしょうか。
「一般的に言えるのは、十分な量の男性ホルモンが分泌されていない場合、ペニスサイズが小さいとされています。そのため、男性らしさの象徴として捉えられている可能性は考えられます。
生殖におけるペニスの役割は、精子の通り道です。
ペニスサイズと生殖の相関を示すエビデンスがないことも踏まえると、その役割のみと考えるのが妥当。一方、精子を作る役割がある精巣には、いい状態であると判断する項目があります。
精巣には白膜(はくまく)で覆われており、内部には細い精巣管が600~800本くらいグルグル巻きに入っています。この白膜でがっちり囲まれている精巣は大きいですし、パンっと張った感じもあります。そのため、精子がしっかり作られている可能性が高いです。
つまり、単純に大きくて張りのある精巣のほうがいいとされます。具体的なサイズは、個人差があることを前提に、人差し指・中指・薬指の指三本くらいが目安になります。
そして、作られた精子は、精巣がベレー帽をかぶっているような、くっつく形で存在する精巣上体(副睾丸)に溜められていき、受精が可能な状態になるまでここで熟成されます。その後、射精のタイミングが訪れると、主に前立腺から分泌される精液と一緒に尿道を通り排出されます。これが、生殖機能の一連の流れです」
男性と女性の生殖年齢の違い
「生殖には、卵子と精子が必要なこと、男女では生殖可能年齢が異なることは知られていると思いますが、その理由はご存知でしょうか。
卵子は、出世時に総数が決まっています。その数は100~200万個とされ、毎月1回のタイミングで選りすぐりの卵子が1個のみ排卵されています。ただし、その1回の排卵のたびに約1000個の卵子が消費されます。一方、男性の精子は、毎日約1億個作られており、この生物的な違いによって、生殖可能年齢に差が生まれています。
精子は、思春期を迎えたあたりから毎日作られています。その後、精巣上体の中で70~80日(平均74日)かけて受精が可能な状態に細胞分裂を繰り返します。精子の形はおたまじゃくしに例えられますが、この期間に変化しているためです。
生殖能力という意味では、精子が作られている以上、何歳になっても可能と言えますが、近年は加齢によって精子の質が低下することがわかってきています。また、男性の生殖は、男性ホルモンの影響も受けます。男性ホルモンは20歳をピークに分泌量が減っていくことがわかっているため、勃起力や維持力に変化が現れてきますし、人によっては性欲そのものが湧かなくなる可能性も考えられます。
また、精液が出ていても、その中に精子が含まれているとは限りません。いわゆる無精子症と呼ばれる、男性不妊の要因のひとつです。
例えば、射精をした際、精液が出なければおかしいと思い、しっかりと出ているならば問題ないと思いますよね。男性不妊の治療の中で精液検査をしますが、その結果として『精子がいません』とお伝えすると、『あんなに出ているのにですか?』と驚かれることがあります。男性自身も知らないことが多いですが、精液の量と精子の数は別の話になります」
男性不妊の治療は未確立
「精子の数の減少は、約40年前から指摘されています。1993年に世界保健機構(WHO)が不妊原因を報告していますが、その原因が女性側にある場合が41%、男性側が24%、男女ともに24%、不明が11%という結果が出ています。このことから、不妊の原因の半分は男性側にもあることがわかりました。
さらに、私自身も2015年からブライダルチェックとして結婚前、もしくは妊活前の男性の精液を検査していますが、4人に1人は精液量や精子濃度、運動率のいずれかで不妊リスクがあると判定され、約55人に1人の割合で無精子症が認められています」
男性不妊の3大原因
1.精巣の機能異常によって精子を作ることができない【造精機能障害】
2.精子が作られているものの射精までの経路異常による【精路通過障害】
3.勃起や射精障害といった【性機能障害】
「厚生労働省が2015年に実施した『我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査』によると、造精機能障害82.4%、性機能障害13.5%、精路通過障害3.9%という結果になっています。もっとも多い造精機能障害をピックアップすると、36.6%は男性不妊を引き起こす代表的な疾患である精索静脈瘤が原因になっているため、手術での改善が期待できるものの、残りの51.1%は原因不明です。
しっかり検査をしても問題がないにも関わらず、精子の数が少ない、運動率が悪いという状況は、男性不妊全体の約4割にのぼります。日本独自の男性不妊の要因として、近年は腟内射精障害を経験する男性も増えていますが、その原因も不明です」
その背景には、晩婚化と、生活習慣の変化によって精子の質が低下している可能性があり、また心理的なプレッシャーも考えられるという。性行為が妊活のために行われていることも、その一因だ。
「男性不妊外来を受診した理由として、『妻に言われたから』という男性が一定数います。具体的に話しますと、妊活目的の性行為の場合、排卵日のタイミングで行いますがその時に性行為ができない、または、射精ができなかったことで『病院に行ってきて』と言われたと。ただ、そういう男性でもマスターベーションはまったく問題なく行えているため、妊活のための性行為は失敗できないというプレッシャーによってできなくなっていることは否定できない状況です。
それは、厚生労働省が実施した『我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査』からも明らか。この調査は1997年と2015年に行われていますが、男性不妊の3大原因のひとつである【性機能障害】は、18年間で約4倍に増加しているからです。
また、私は普段、男性不妊と向き合っていますので、妊活をしている男性の話を聞いています。すると、『妻とセックスができない』という悩みが一番多いです。なかには、妻には興奮しないというケースもありますが、その多くはプレッシャーが要因になっています。
妊活をしていると月に1回の排卵のタイミングで性行為をしていますので、必ず成功しないといけないというプレッシャー、もし妊娠しなかったら次の排卵日までの期間、奥さんに冷たくされるのかもしれないというプレッシャーなど、さまざまです」

男性の生殖はプレッシャーに弱い
【性機能障害】とは、勃起障害、射精障害、性欲低下の3つを指します。勃起障害にはバイアグラなどのED薬という治療薬はありますが、射精障害には治療法が存在していないのが実情。
「繰り返しになりますが、男性不妊の約8割は数が少ない、質が悪いという精子の問題ですが、そうなった理由がわからないことがほとんどです。
そのため、生殖に関する治療法は限られています。ただ、不安が強い人は精子の状態が悪くなるというデータがあるように、生殖の視点からは男性はプレッシャーに弱いと言えます。
プレッシャーに弱いという繊細なイメージは、男性の性からは想像できないかもしれませんが、そういう側面があるのも事実。それくらいメンタル状態は生殖に影響を与えています。
根拠のない男性の性を巡るさまざまな神話や疑問に振り回されず、健全な性生活を送るためには、男性器のこと、生殖にまつわることなど、正しい知識を得ることがとても重要です」
賢者になろう!
男性生殖器の基本機能の名称と役割

・精管
直径や約3mm、長さは約40cmと細長い管。膀胱の背部にある精嚢(せいのう)へとつながり、精巣上体に貯えられた精子を尿道まで運ぶ機能がある。
・陰茎(いんかく)
ペニスと呼ばれる部分。下腹部の構造と恥骨につながっている陰核根と体外から見える陰核体、亀頭で構成される。性的興奮などによって海綿体に血液が流れ込むと、勃起して腟への挿入と射精を可能にしている。
・精巣
一般的には睾丸と呼ばれる、いわゆる男性の生殖器と言われる臓器で陰嚢(いんのう)の中にある。一般的には4~7cmの卵型。男性ホルモンであるテストステロンの分泌、精子をつくり生殖を可能にする重要な役割を持つ。
・射精管
射精時に精液が通過する管のこと。射精時、精管から射精管を通って尿道まで運ばれる。
・精嚢(せいのう)
精子を一時的に貯蔵する場所であり、射精時に精子を尿道へ送り出す役割も担う。射精時に排出される精液は、精巣で作られた精子と前立腺や精嚢からの分泌物が混ざったもの。
・前立腺
男性だけにある臓器で、膀胱のすぐ下、骨盤のもっとも深いところに位置する。精子の保護、精子の運動を活発化する動きがある前立腺液を分泌している。射精時に前立腺が収縮することで、精液の射出の勢いを補助する役割も持つ。
・尿道球腺(にょうどうきゅうせん)
性的興奮時に弱アルカリ性の粘液を分泌し、尿道・腟のアルカリ化や性交時の潤滑剤として働くと考えられている。外科医のウィリアム・カウパーによって発見されたことから、カウパー腺とも言われる。
・尿道
精液は、精巣から尿道を通り、陰茎の先端の尿道口から放出される。また、尿を排出する役割も担う。
・精巣上体(せいそうじょうたい)
陰嚢の中、精巣の外側に付随している組織で、副睾丸とも呼ばれる。精巣でつくられた精子はこの精巣上体に集められ、成熟させることで受精するための能力を与えられる。その期間は、ここで貯蔵される。
・陰嚢(いんのう)
陰嚢は、陰部の嚢(ふくろ)という意味。陰茎の付け根付近に位置し、ひだのある皮膚で精巣を包み、温度調節を行う働きをしている。
【辻村晃先生プロフィール】
泌尿器科医・順天堂大学医学部附属浦安病院 泌尿器科 教授。日本においての男性不妊、男性更年期症状の第一人者として知られ、数少ない男性医学と不妊治療両方のエキスパートであり、不妊に悩む多くの夫婦を助けている。生殖学、性機能障害の治療に注力する『日本生殖医学会生殖医療専門医』『日本性機能学会専門医』でもある。